アイヌ語を学ぶなら「今」だという話

イランカラプテ!この記事はつぁいにゃおニシパ主催のアドベントカレンダーThe 言語 Advent Calendar 2018」の6日目の記事です。ちなみに6という数字は(日本語でいうところの8×10ⁿ…嘘八百八百万の神…みたいなかんじで)アイヌ語では「とても大きい数」をあらわす時に使われて、「アイヌモシリから送られた供物は、カムイモシリには6倍の量(つまり、とても大量)になって到着する」みたいなかんじで頻出します。アイヌ語で特別な数字だからってべつに狙ったわけじゃないけど、なんだか奇遇!

 

 のっけから楽しくなってしまって話があらぬ方向へ突っ走りそうですが、簡単な自己紹介を挟んで軌道修正を図ります。はじめまして(あるいは、改めまして)、アポラ(@apola@theboss.tech)という者です。言語がすきなしまうまです。お読みになる方は暫しお付き合い願います。ちなみにしまうまは「わんわん」と鳴きます。わんわん!!

 

 さてさて、皆さん言語好きですよね!言語が好きな人が学ぶ言語といえばいろいろありますよね。メジャーな言語をたくさん勉強して文学なんかの原典に当たれるようになることに喜びを見出すひとも居るでしょうし、ひたすら印欧語を極めて比較言語学のど真ん中で涎を垂らす人も居れば、非印欧語の大言語を学んで神の偉大さにふれたり、ひたすらマイナー言語に突っ走る人、古典語をたくさん身につけて最強になる人、またエスペラントなど計画言語に夢を感じたり感じなかったりして勉強する人、あるいはオリジナルの言語で新しい宇宙を自ら創出し洗練していくことに喜びを見出す人などなど、本当に様々かと思います。そこで、それらの中でちょっと違った楽しみ方ができる言語、そう、アイヌ語について、この場をお借りしてその良さをお話ししようかと思います。

 

 アイヌ語学習が他の言語学習と違うのが、一つとしては(この点は他の先住民言語・少数言語・消滅危機言語と大いに共通するのですが)、その言語についてまだ良くわかってない部分がまだまだあるということです。ある程度メジャーな言語なら、学んだり読んだりする中でわからない部分があれば、書籍に頼るなり、訓練を受けた教員に尋ねるなりすれば解決します。しかしアイヌ語をはじめとする少数言語はどうかというと、頼れる書籍も多くなく、わかる人も少なく、またそもそもその言語について研究するにしても資料や研究者が少ないなどの理由であまり良くわかっていない部分があるので、言語を学ぶうえで抱いた疑問が、大言語では文法書の端に書いていてくれても良いようなことでも、これらの言語のそれでは、まだ世界の誰も解決していない疑問だったなんてこともアイヌ語を学ぶことは、それ自体がフロンティアであり、ミステリーの営みなのです。これだけでゾクゾクしません?しません??

 また、アイヌ語に関する資料は日本語以外のものがほとんど無いので(あれですね、アイマラ語を勉強したいと思ったらスペイン語がわからないと厳しいみたいな)、アイヌ語を学ぶということに関してはわれわれ日本語話者は特権的な立場にいるのです。この幸運を逃すわけにはいきません!アイヌ語を勉強しましょう!

 

 さてさて、ここまで私はアイヌ語を学ぶことの良さについてその一部をお話ししてきました。さて次は、アイヌ語を学ぶなら、なぜ「今」なのかということについてお話しします。

 現在、文化庁の「アイヌ語の保存・継承に必要なアーカイブ化事業」に対して予算が出ており(わたくしアポラも少しお手伝いしています)、この事業によって今、アイヌ語がアツいんです。

 アイヌ語母語話者が少なくなった今、アイヌ語の研究に関して、結構な部分を過去の録音資料に頼らなくてはならないのですが、アイヌ語のテープ起こしができる程のアイヌ語力をもった人が少なく、その作業は牛歩で、現在に至るまで文字起こしの済んでいない大量の録音が残されています。そこで、この文化庁の事業は、近年急増した(私のような)アイヌ語学習者など、アイヌ語がすこし出来る人にアーカイヴの比較的簡単な作業を任せることで、アイヌ語力のたくさんある人はテープ起こしに集中でき、また学習途上のアイヌ語学習者は将来的により高度な作業や研究への参加を目指す訓練ができます。この事業でアイヌ語資料のアーカイヴ化やその公開がずんずん進めば、研究者や学習者が参照できる資料がぽこぽこ増えるということですから、アイヌ語についてわれわれ人類が持つ知識が、これからもりもり増えていくということになります。事実、新たに参照可能になった資料により、いままで誰も知らなかった言い回しが実は可能だったのだとわかった例がごくごく最近の事としてあります。アイヌ語の宇宙は今この瞬間にも絶えず大きくなり続けており、そしてその膨張は加速度的にそのスピードを増しています。その最前線を目で読み耳で聴き発声器官でもって話すことができる最大の好機が、まさに今なのです。他の大言語ではこのようなフロンティアに全身で浸ることはまず叶いません。今こそ、アイヌ語を勉強しましょう!

 そして何より(これは言語に直接かかわる内容ではないので簡単にふれるだけにしますが)、アイヌ語アイヌ文化、アイヌ民族をとりまく状況の変化が、アイヌ語学習をさらにエキサイティングなものにしています。アイヌ民族は歴史のなかで激しい差別に晒されてきました。それが今、アイヌを登場人物とする漫画のヒットも手伝って、アイヌがポジティヴな文脈で語られるようになってきていますアイヌに対する和人の意識のみならず、アイヌ民族の自意識がポジティヴな方向に変化し、そしてアイヌ語は両者をつなぐ媒体のひとつとしての機能を帯びはじめています。激しい弾圧によってアイヌ民族は一度はアイヌ語を惜しくも手放すことを強いられましたが、アイヌ語を学ぼうとする人は、アイヌ、和人問わず、今後も増え続け、アイヌ民族や言語のおたく、その他の人々によって、長く愛されていくでしょう。

 

 資料の面からも、人々の意識の面からも、アイヌ民族アイヌ語に関する研究や活動はまさに今こそ正念場です。アイヌをとりまく状況は今まさに大きく変わりはじめています。危機言語であるアイヌ語を学ぶモチベーションは、終末モノ的な感傷では決してありません。一度消滅しかけたアイヌ語は今新たな使命を帯び、そして遠くない未来に復活の輝きを見せてくれるでしょう。その復活の過程を目撃する証人になりたくて、今こそアイヌ語を学ぶのです。一度消滅しかけた言語の堂々たる復活を、特等席であなたも見てみたいでしょう?!さあ!あなたも!!アイヌ語にふれてみては如何でしょーか!!たのしいよアイヌ語!!!

Fire7タブレットを3480円で買った/履修申告不備──語学全滅と履修計画再建

AmazonのセールでFire7タブレットを3480円で購入した。用途としては、ゼミ中に資料を表示させておくため。

メインのPCとしてGPD Pocketを使っているが、画面が7インチなので、資料を表示しながら調べ物をするという使い方には向かない。そこでもう一つ大きめの画面をもった端末があることで、それで資料を表示させながら、GPD Pocketで調べものをすることができる。

Fire7のタブレットはちょっとした細工でごく普通のAndroidタブレットとして使うことができる。RAMが1GBしか無いなど性能があまりに低いという問題こそあれ、用途ごとに端末をわければマルチタスクの必要性は薄いし、そもそも3480円という価格を考えれば、限定的な用途でも使えるというだけで元がとれるはずだ。実際、重めの仕事をさせると多少のもたつきはあるが、普段通りに使っているぶんにはいたって快適に動作する。良い買い物をした。

3480円というとちょっとぶ厚い書籍よりも安い。これを買ったあとだったので、4104円もする聖書ヘブル語の教科書を買うのをしぶった。のちに履修申告の不備によりヘブライ語の単位が認められないということがわかったので、結果的には買わなくて良かったが…。

さて、言語文化研究所設置科目の履修を今年度になってはじめて試みた。履修しようとしたのはサンスクリットトルコ語ヘブライ語。しかしそれらの科目は「他学部設置科目」としての履修は認められず、卒業単位に数えられない「自由科目」になってしまうので、授業に(聴講と同じように)出席するかは別として、履修計画が大幅に崩れることになる。さらに、先学期は学期途中で問題が発生して単位のほとんどを落とすという事故が発生しているので、このままでは卒業に必要な単位数すら満たせない。

こんなこともあろうかと、文学部設置科目を中心に、ちょっと目についた科目を余分に履修申告しておいたので、それでなんとかして卒業に必要な単位数を満たす戦法でいきたい。今学期の文学部科目は、日本語学(現代語彙)と音声学。来学期は、言語学概論、文化人類学(朝鮮)、科学の哲学、手話言語学文化人類学ラテンアメリカ)の中から、少なくとも卒業に必要な単位数ぶん以上は取得したい。